- 業 種:
- 販売
事業者名:きもの 藤本屋
「もっと気軽に」 100年の日常と冠婚葬祭を支える着物屋
大正時代に創業した「きものと帯 藤本屋」。もともとは着物の染工場としてスタートし、現在は着物・小物の販売、そして着付け教室をおこなっています。
「着物をもっと気軽に着てほしいですね。一人でも多くの方に着てもらえるように支えるのは、私の役目なのかもしれません」と話すのは、代表の赤羽正臣さんです。
創業から100年以上、辰野の着物文化を支えてきた老舗店の赤羽さんに、着物の楽しみ方のほか、ファストファッションとは真逆といえるような着物の機能、そして着物への想いなどを伺いました。
■染工場からスタート。地域の着物屋
大正時代に創業した「きものと帯 藤本屋」。当初は普段着としての着物や小物を染める染工場としてスタートしました。
「着物に仕立てる前の生地である“反物(たんもの)“の染工場として祖父が立ち上げました。
みんなで染めあげた反物は、横川川の河原に移動して、糊を洗い落としていました。大量の水が必要なので、川の中で洗ったんですね。反物のサイズは13mなので、川に並べられると川を占領するほどでした。」
そこから日常の服を扱う着物販売店に転換。現在も着物や浴衣(ゆかた)、小物の販売を続けています。
着物は高価なもの。“似合わないものを無理に売るようなことは絶対にしたくない”という思いで、似合うものを一緒に探したり、似合うように工夫をしたりして提案しています。
「うちではいろんな着物を試していただけます。反物の状態でも肩に当てて帯を締めると、まるで着物を着ているような姿にできます。いくつかパターンを撮って、ご家族と相談されるのもいいですよね。」
扱う着物は、いわゆる冠婚葬祭の留袖(とめそで)や振り袖、訪問着、そして普段のお出かけにも着られる小紋(こもん)・紬(つむぎ)、浴衣などです。
着付け教室も開催していて、これまでに生徒のほか、たくさんの講師も育ててきました。1人で着られるようになるのに3ヶ月、人に着せてあげるのに6ヶ月から8ヶ月、講師になるのに約1年半から2年ぐらいの期間が必要とのこと。講師になれば、花嫁衣装まで着させられるようになります。
100年以上、着物の事業を続けてきましたが、赤羽さんの代で店じまいを考えているとのこと。
「うちがなくなったら足袋やバッグなど、辰野町内でちょっとした小物を買えるところがなくなってしまいます。だから、できるだけ長く続けていきたいと思っています。」
■地域の冠婚葬祭の着付けを担当
最近は学校の卒業式や入学式で着物を着る保護者が多くなってきたそうで、藤本屋では着付けを担当しています。
「美容院でヘアセットだけしてもらって、あとはうちで着付けの流れですね。春先の入学式・卒業式の時期は忙しいですよ。学校に8時半に集合となったら、それに合わせて1人ずつ対応しますから、早いときは朝の6時くらいから着付けが始まります。やっぱり着物を着ていると目を引きますから、良いですよね。」
着物は苦しいイメージがありますが“藤本屋では、苦しくなく綺麗に着られる“と好評とのこと。リピーターも多くいます。着付けの教室を開催しているので、着させるのはお手の物。ほかにも20歳の記念に写真撮影をするというお客様からも、着付けの依頼があるそうです。
特に取材時は、夏に向けて浴衣を多く取り扱っていました。すぐに着られる浴衣のほか、これから仕立てる反物も揃っていました。
「ネットで探せば、草履から浴衣まで何もかもセットになった“一度着られればいい”というような安価なものもありますが、当店ではどうしても着物だけで2万円ほどかかります。お仕立て一式となると5万円くらいかかることもありますね。しかし、一度作ればそこからはずっと着ることができます。」
『信州辰野ほたる祭り』に向けて、浴衣を揃えるお客様もいるのだそう。ほたる祭りは辰野町最大の祭りで、6月上旬から中旬にかけて「辰野ほたる童謡公園」で開催されるほたる鑑賞イベントです。ホタルと浴衣は、夏の夜によく映えます。ほたる祭り時に着せてもらえるように県外の観光客からも予約があったそうです。
■日常のお出かけにも輝く着物
冠婚葬祭だけではなく、普段着として着物をおしゃれに楽しむ方も増えているとのこと。
「当店でも“紬”など、日常に着る着物が多く出ています。最近では“友達との会食に出かける”とのことでお客様が購入されていきました。
この前、私も美術館で着物を来た方を見かけましたが、素敵でしたね。自身でさっと着られて、楽しめるのはいいですね。」
紬とは、染めた糸を織って柄を出す先染めの着物です。パタパタと機(はた)織りでつくる昔ながらの工法で作られます。昔の人の日常着として生まれましたが、だんだんと絵柄が付けられていきました。
落ち着いた風合いで、洋服の人といっしょにいても馴染みやすいので、日常に取り入れやすい着物です。
紬の次に発展したのが小紋。こちらは型に染料をのせて模様を描く技法です。こちらの模様はかなり豊富なバリエーションがあります。無地の生地に同じ絵柄を繰り返し入れていきます。
「小紋も紬も礼装用ではありませんので、日常のお出かけで着られます。それでも一番カジュアルな着物は紬。自由度が高く、着やすいため人気です。昔は普段着でしたが、今はもう立派なおしゃれ着です。」
■ファストファッションとは真逆な着物の可能性
着物のすごいところは何点かありますが、まずは長く着られることです。昔の着物でも長く使えるのは着物ならでは。
「100年たっても着られます。洋服みたいに流行で着られなくなることはまずありませんし、丈夫です。
体型が変わっても問題ありません。洋服の場合はLサイズの方はMサイズを着られないものですが、着物は一反13mを体型に合わせて仕立てるので融通が利きますね。」
驚くことに1反の着物をほどいて、全部をつなげ直せば、また13mの1反に戻ります。そして着物は、ほどいて仕立て直せるのも良いところです。
「洋服はカットしてあるので元には戻りませんが、着物はハギレを出さずに仕立てているのでサイズを調整して作り直せるんです。糸をほどいて中に縫い込んでいる部分を広げたり狭くしたりすることで、着丈を長くしたり短くしたり、横幅を変えたりすることができます。
最近では、親御さんの振袖を仕立て直して着る方もいらっしゃいますよね。流行り廃りがない着物ではありますが、今は昭和レトロな柄が人気ですから。帯と帯締めをちょっと変えれば、もう現代風になるので、被らない個性を楽しめます。」
そのほか、小紋であれば柄に染料を乗せ直すことで色味を変えることもできます。例えば赤色の部分に、上から暗めの色を乗せれば、茶の色味に染め直せて楽しめます。
「古い着物でもずっと着ることができる。そして新しい着物へと再生できる着物は、エコな衣類です。」
■“日本の文化”である着物をもっと着てもらうために
“便利屋のような存在でいたい”と話す赤羽さん。着物を着たい方はたくさんいるものの、マナーが分からなくて手を出せないと言う方も多いと感じています。
「昔ほど、着物のしきたりが厳しくなくなってきたので、もっと気軽に着てほしいですね。“ちゃんと着られているかな”と心配する人もいますが、そんなに細かいところまで皆さん見ていませんし、どんな着方でも大丈夫ですよ。」
“もっと自由に、気楽に楽しんでほしい”と赤羽さんは話します。
「タンスに眠っていた着物が買い取りに出されるのは、やっぱり少しかわいそうな気もするんです。だから、なるべく着てもらいたい。タンスの奥から出てきた着物一式を持ってきてもらって“これ、どうしたらいい?”とか、“結婚式に呼ばれたけど、どれを着ればいい?”など、ぜひご相談いただきたいです。着物をどうやって活かすか、一緒に考えます。着物を着てもらえるのが何よりもうれしいです。」
藤本屋では、着物を着た会食イベントなど、着物を購入してくれたお客さまを中心に、着物を着る機会もつくっているそうです。
着物メーカーも少なくなってきて、欲しいものが手に入らなくなってきた時代。これから、ますます手に入りにくくなりそうな流れがあります。一時期、着物があまりにも文化財のような存在になってしまって、着るというより“守る”という感覚が強くなっていた風潮もありました。
「でも、本来はやっぱり“着てなんぼ”の世界だと思っています。文化財として大事に保存するのは博物館がやってくれればいい。着物は、実際に着てこそ価値があるものだと思います。
やっぱり日本の文化ですからね。一番大切なのは、着る人を一人でも多く増やすこと。 “これがいいですよ”って、自信を持っておすすめできるものを届けていきたいと思っています。それが私の役割だと思っています。」
100年以上、辰野の着物文化を支えながら、地域に根ざした商いをおこなってきた「きものと帯 藤本屋」。これからも着物文化を育てていきます。
- 会社情報
会社情報 事業者名 きもの 藤本屋 所在地 〒399-0421 長野県上伊那郡辰野町下辰野1706 電話番号 0266-41-0102 FAX 0266-41-5020 代表者名 赤羽 正臣 全従業員数 2名(うち、男性1人 女性1人) 主な業種 卸小売業 事業内容 呉服販売・着付
- 会社情報
事業者名 きもの 藤本屋 所在地 〒399-0421 長野県上伊那郡辰野町下辰野1706 電話番号 0266-41-0102 FAX 0266-41-5020 代表者名 赤羽 正臣 全従業員数 2名(うち、男性1人 女性1人) 主な業種 卸小売業 事業内容 呉服販売・着付